位置情報に関連するスタートアップは海外でも注目度が高いですが、その中でも一風変わったサービスを提供しているのが2016年に創業したシリコンバレー発のスタートアップ「Miles」です。
ユーザーの「ビッグデータ」を集めるために様々な仕掛けを施す同社のサービスは、日本でも交通業界・ディベロッパーなど「街づくり」をビジョンに掲げる企業群とのシナジーが想像されます。
シリコンバレー発のスタートアップ『Miles』
Milesはユーザーに対して示す価値と、マネタイズににあたって企業群に示す価値それぞれが非常にシンプルなことが特徴と言えます。
- ユーザーは「移動する」だけで報酬を受け取れる
- 「徒歩」はポイントがたまりやすい、車や飛行機は逆にたまりにくい
ユーザーに対して掲げるのは「持続可能な社会の構築」というエコの観点と、明確な報酬です。ユーザーがこのアプリをインストールすれば、アプリは自動的にユーザーの移動情報を蓄積してくれます。おそらく、移動の速度を基に徒歩なのか、自転車なのか、車に乗っているのかなどを捕捉しているのでしょう。
移動の距離に応じて『Mile』というポイントが溜まるのですが、このポイントは移動手段ごとに変わってきます。上の画像を見てもらうと…徒歩・走りだとポイントはたまりやすいですが、逆に車や飛行機などだとたまりにくい、という風に「よりエコな移動手段であればあるほど」ポイントが溜まる形になっています。
移動によって溜まったポイントはスターバックスやAmazonでのポイントに変えることができるので、ユーザーからすればバスよりも歩きで家に帰ったほうがお得…という風に動機付けされますね。
Milesと提携・ユーザーへの報酬を提供してくれる企業も上記のように一定数揃っており、これらの企業数が充実すればするほどユーザーの「Milesをインストールする旨み」が高まります。何もしてなくても、日々移動するだけで稼げるなんて、やらない理由はないですからね。
データをいかに活用するか
さて、ユーザーメリットを最大限高めてMilesが集めるのは「人々の移動行動に関するビッグデータ」。これがMilesにとっては生命線となります。
Miles knows where and when people move, how they got there, and maybe even why they moved in the first place.
(訳)Milesは、人々がどこでいつ移動するか、どのようにたどり着くか、そしてもしかするとそもそもなぜ彼らが移動しようとしたのか…まで知りうる。
Milesで集めたビッグデータを、自社で活用したい企業は非常に多いと想像されます。冒頭に述べた交通・不動産系の企業はもちろん、飲食店や美容室などが出店計画を練る際にも貴重な情報となりえます。
ですので、オフラインでの店舗展開を行っている業種や、街づくり・土地に関わる企業であればどこであってもデータを活用できる余地はあると考えられます。
Porche(ポルシェ)からの出資
Our aim is to tailor our approach to the Porsche customers’ behaviour patterns wherever possible, working across the entire mobility chain to ensure that we support them and they engage with our brand.
(訳)我々の(出資の)狙いは、可能な限りどんな場所においても、ポルシェに乗るお客様の行動にアプローチできるよう仕立てることです。お客様の全ての「移動」に働きかけることで、より確実に我々はお客様のサポートができ、同時に彼らのポルシェへのロイヤリティは高まることでしょう。
訳はざっくりですが、要はポルシェに乗るカスタマーの「移動」行動を捕捉し、それにあった形でのサポートを行うことで彼らのロイヤリティを高める…という視座を持って、ポルシェ社は2018年にMilesに出資を決めたようです。
スタートアップが資金調達する際、ビジネスの必要資金を集めるため、という場合もありますが、ビジネスシナジーを考えた上での資金調達の場合もあります。上記の場合、後者の思惑が強かった可能性もありますね。
Milesに期待したいこと
海外の紹介記事でよく目立つのは、このサービスに期待を持っているのは「街づくり」に関わる会社群である、という話。位置情報サービスの例だと、「ユーザーの現在位置を基とした最適な広告配信」といったアウトプットがありますが、Milesにおいては「交通・移動」という切り口が特に目立ちます。
蓄積したビッグデータを基にAPI提携に課金をする位置情報サービスも出てきていますが、Milesに関しても同様のマネタイズが考えられます(現状は未展開、もしくは公開をしていないようですが)。
まだシード期のサービスですので提携企業の増加・アプリそのもののユーザー数の増加など、様々な要素のどこをドライバーとして動いてくのかは見えにくいですが、位置情報サービスの一つとして今後が期待されます。
こういったサービスの競合を想像すると、常にGoogleの顔が頭に浮かびます…。恐ろしや。